スペイン語の音声 自立型音声聴取学習
言語によるコミュニケーションは、聴覚による音声や信号、視覚による書記や手話など言語記号の授受にかかわる本質の部分のほかに、リズムとイントネーション、伝達の速度、語や表現の選択、表情や身振り、効果音やBGMなどの使用、文字の種類や字体、文字の大きさや色、表記方向、アイコンや図版・挿絵の使用など視覚表現の種類、色彩や提示の形式、送受信者の持つ予備知識やコンテクストの量と質をはじめとする、様々な情報を総合的に用いることによって成立している。これらの情報の中には重複する要素や矛盾する要素が多く含まれていて、必要な場合には相互補完的に情報交換の精度の維持に貢献している。
音声による伝達の場合だけを取り上げても、それに付帯する多くの、しばしば重複する情報によってコミュニケーションの成立が確保されている。外国語学習における音声指導の重要性は言を俟たないが、教授・学習の現場では人的また時間的制約のため、十分に行われていないのではないかと思われる。
日本語とスペイン語の音節構造と母音体系における類似点は、単語や熟語の場合に限って言えば、日本語人スペイン語学習者が初歩の段階で、聴取(および発話)の際に直面する困難さの程度を低減させているが、一文以上のまとまった内容をもった発言や文章の朗読の聴取になると、大学の熱心な学習者においてさえ、いささか心もとない聴解力であることを認めざるを得ない。一般の言語活動の聴取理解は必ずしも記憶したり記録を残したりするものではないが、外国語の学習指導の場合は何らかの方法で聴取理解の達成度合いを教授者と学習者とが明示的に、できれば記録に残る方法で、知り得なければならない。この目的で、しばしば教室で行われる聴取理解のための訓練がdictado(書き取り)である。
聴取書き取りが一般の言語活動として行われる最も自然な状況は口述筆記や、議事録の速記と録音の文字起こしなどであろう。口述筆記というと著作物や手紙などのそれを思い浮かべることが多いかもしれないが、学生が講義のノートを取ることも一種の口述筆記であることを考えれば、学習者にとって学習言語での口述筆記や音声文字起こしの練習は必要にして不可欠なものであることが理解される。
「自律型音声聴取学修」は聴取書き取りの演習によって、当該外国語の音声を聴取して理解する技能を養成するためのプログラムである。